一泊2日狩猟体験 その3(実技1日目)

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一泊2日狩猟体験シリーズの3記事目になります。今回は、実技を通じて考えたこと、感じたことを書いていきます。狩猟体験は生活の自給自足を目指す私にとって、大変意義のあるものでした。お世話になった千葉県いすみ市にあるハントプラスの石川さんとそのスタッフの皆様、そして、一緒に体験に参加したhalu農園の仲間にとても感謝しています。また、この記事を読んでくださる皆様にも、改めてお礼申し上げます。

さて、狩猟体験の実技の内容は多岐に渡りました。

敷地内にはまるで南国のような景色も
目次

ハンタートレイル(猟師目線の山歩き)

狩猟体験初日は大雨の翌日で湿気が多く、気温は33度を超える大変に蒸し暑い気候だった。しかしそれが、ハンタートレイルでの学びをより充実したものにしてくれた。

猟師目線の山歩きでは久々に五感が生き生きと目覚めるような感覚を覚えた。コロナ禍以降、マスク、ソーシャルディスタンスが日常的となり、嗅覚と味覚が大幅に制限されてきた。畑での活動もそうだが、狩猟体験の初めから終わりまで、私達はマスクを着用しなかった。五感に制限を掛けた状態では「自然の声」を感じ取る事はできないからだ。

ガイドの石川さんと山を歩いていると、様々なものを感じた。踏みしめる腐葉土の香り、遠くからかすかに聞こえる動物の鳴き声や車の音、木漏れ日、汗が皮膚を伝う感覚、自分と仲間の体臭、洋服の匂い、口腔内に感じる山の空気の味など。書き出すとキリが無いくらいに五感を使っていたことが思い出される。

山中に分け入る仲間
獣道の説明をする石川さん

私は日ごろ、空調の利いた人工的な空間で過ごす時間が長い。そのような環境とは対照的な山の中では、私も自然の一部に溶け込み、一体となる様な感覚を覚えた。こうした感覚は猟師にとってとても大切なスキルで、自分の存在を自然と同化させる感覚で山に入ることで、動物に遭遇する確率が大幅に高くなるのだそう。私達も猟師のそうした感覚を体感するために、地面に腰を下ろして5分間の瞑想を行った。その後に、忍者のように存在を消しながら山道を歩くという体験もした。

狩猟を趣味とする人の中には、獲物を仕留めることよりも、自然と同化するこの感覚を味わうことが目的となっている人が結構いるのだそう。日本人は特にそうした傾向が強いらしく、国際的にみても特殊。一方で西洋の狩猟は動物を狩ることが目的の狩猟なのだそう。自然環境が生み出した歴史や文化的な背景の違いがDNAに刻まれていること実感した。

山は草木で覆われており、ガイドなしには入り口がどこにあるか分からない。でも、一歩山に入ると意外なほどに開けた道があった。聞けばその道は昔の通学路だったのだそう。何キロも離れた先にある学校まで、昔の子供たちが山の尾根沿いを歩いて登校していたらしい。一歩踏み違えば滑落しそうな急斜面もあるから、昔の人は本当に凄いなと思った。

さて、山道をハンター目線で行くと様々な動物の痕跡があった。獣道がそこかしこにあり、しかもそれが最近使われたものか、しばらく使われていないかの判別もできる。罠を仕掛ける時は、最近使われた獣道を選ぶとのこと。さらに、立木の幹に目をやると、不自然に泥が付いている。これは、イノシシやシカなどの動物が通る際に付いた泥であり、こすれ具合や泥のついている高さから動物の種類まで判別できる。判別できると言えば、動物のフンも猟師にとっては重要な情報源である。ふんの形から動物の種類を判断できるし、フンの鮮度からは動物がそこに居た時刻を読むことができる。

動物の体の泥がこすれた跡
猪が掘り返した跡

道中、イノシシが餌を探すために土をほじくり返した痕跡を確認することができた。さらに動物たちの水場もあり、その周辺の木の幹には泥が付いていて、大小様々動物が訪れることが分かった。ちなみに動物たちが水場に来るのは明け方とのこと。

動物達の水場

皆さんは、「ムジナ」という単語を聞いた事があるあろうか。「同じ穴のムジナ」ということわざがある。実はこの語源は、山の中にあった。山中では、直径100~200㎜程度の穴がを見かける。これは、アナグマという小動物の住処で、穴は地中で枝分かれしており、出入り口が何か所か設けられている。このアナグマの住処を、タヌキやイタチ、ハクビシンなどが間借りする。だから、猟師がアナグマの巣で獲物を仕留めると、アナグマ以外の動物も取れる事がある。このことが転じて、「同じ穴の貉(ムジナ)」ということわざができたのだそう。

アナグマの巣穴

ちなみに、アナグマの肉は獣肉の中でも最高に美味しく、タヌキは食べられなくもないけど美味しくないのだそう。良く、日本昔話で登場するタヌキ汁は、じつはアナグマ汁だったのではないかと石川さんは言っていた。

道中、見事な果樹や竹林もあり、大変豊かな環境であった。昔住んでいた人が管理していたようだが、現在は耕作放棄されている。しかしそのポテンシャルの大きさに、山を買って仲間と自給自足的な暮らしをするには、房総の豊かな土地は適していると感じた。

罠の仕掛け方講座

狩猟と聞くと、銃で獲物を仕留める事を創造する向きがあるが、銃は必ずしも必要とは限らない。四つ足の動物なら罠を仕掛ける方が効率的なのだそう。なので、罠を仕掛けた後は掛かるのを待つスタイルの狩猟が中心となる。罠にも種類があるが、「箱罠」にはほとんど掛からないのだそう。メインで使うのは「くくり罠」といいうもので、塩ビの配管とワイヤー、バネで作られたシンプルなもの。ネットで普通に販売されているそうだが、自作もできそうな構造。でも、取り扱いには慣れが必要で、罠をセットする間に、誤って自分が自分で仕掛けた罠に掛かってしまうということが起きる。私もやってしまったが、これはこれで、動物のキモチを知る良い機会となった。

くくり罠にワイヤーをセットした様子
罠を仕掛けるポイントを説明する石川さん

この、くくり罠の使い方を教わった後、ハンタートレイルで学んだ獣道の知識を活かして、参加者それぞれがここと決めた獣道に罠を仕掛けた。もちろん、狩猟免許を持たない参加者は罠掛けを直接行うことはできない。なので、石川さんとスタッフの小池さんがセットした。夕暮れも近づき薄暗い中での作業になったが、なんとか作業を終えて、今日の実技は完了した。

野生獣肉(ジビエ)のBBQ

日中よく歩いたし、初めての経験の連続で頭も使ったこともあり、皆お腹を空かせた中で待ちに待った夕食の時間となった。食事のメインは野生獣肉(ジビエ)のBBQ。もちろん、肉は全て石川さんと小池さんが仕留めたもので、都内の専門料理店でもめったに口にできないような素材の数々を準備してくれていた。

野生獣肉の数々
野菜もたっぷり

獣肉は、冬のイノシシ、未経産のイノシシ、日本ジカ、キョン、キョンのレバー、キョンのハツ、ハクビシンという豪華な内容。しかもそれぞれ量が多い。まさに、ジビエ料理専門店で注文したら目玉が飛び出るくらいの金額になること間違いなしといった感じである。メニューはこれだけではない。タイのなめろう、湯葉のお浸し、海鮮アヒージョ、ピザ。さらにビールとおつまみまで準備されていて、感動の内容だった。ちなみに、房総半島ではアジのなめろうが有名。タイのなめろうははじめてだったが、海が近い土地柄であるからこその、その日のメニューだったようだ。

タイのなめろう
海鮮アヒージョ
ハクビシンは味と香りが良い

野生獣肉は少量で満足感を得られる

これだけたくさんのメニューがあれば当然に満腹になるだろうと思ったが、私はBBQとなると結構な量を食べる。せっかくの機会でもあるので、お肉は残さずいただきたいと思った。ところが、いざ食べてみると、いつものBBQであればもっとたくさんのお肉を食べられるはずなのに、少量を口にしただけで満足感が得られた。お肉そのものは脂身が少ないにも関わらず、やわらかくてジューシーであり、家畜肉とは比べ物にならない程美味だった。しかもどれを食べても違いが分からない程のレベルで臭みもない。この感覚は私だけでなく、仲間も同じだった。

さらに翌朝の胃もたれが全くない。牛ブタ鳥がメインのBBQの翌朝は、たいていの場合は胃もたれがするものだが、今回は全くそのような事は無かった。

これはとても不思議な感覚であり、初めての体験だった。憶測だが、本物の野生獣肉には生命力が宿っているのではないかと思う。本来食事とは他の命をいただく行為である。だから、強い生命力を宿した本物の食材は、少量で満足するのではないか。私たちは、食べ物を残すことは良くないという認識を少なからず持っていると思う。それは、親や学校での教育の影響もあるだろう。しかし、その意味を体感している人がどれだけいるだろうか。

食事とは他の命をいただく行為である。だから、食べ残しは命を粗末に扱うことに繋がる。食材を調理してお皿にきれいに盛り付けて食卓を飾る行為は、いただく命に対する供養の意味もあるのではないか。

レトルト食品やインスタント食品、冷凍食品に慣れ親しんでいる現代日本人は、食事の意味や有難さを知らないだけでなく、本物の食事を摂る喜びも感じる機会がほぼない。「作ってくれた農家の人に感謝しましょう。」といった程度の、薄っぺらい理由を聞かされることもしばしばである。

さらに最近は、世界的な植物由来の人口肉の開発が加速しており、空気から肉を作るエアミートなる技術まで登場している。これは人間を機械のように燃料を投じて機能させる対象として扱っているような気がして、強い違和感を覚える。「動物を殺すことは可哀そうだから」、「牧畜に伴うメタンガスが温暖化の要因だから」、「牛なら2年かかる肥育期間を、代替肉なら4日で生産できて効率が良いから」などと代替肉の良さを説明する意見はすぐに見つかるが、他の命をいただいて生きているという事に考えが及ぶ人はほとんどいない。人類今、いろんな意味で歴史的な転換点を迎えているのかもしれない。

そしてこの違和感は、翌日の実習でさらに強いものとなった。

石川さんのがHANT+を開業して、狩猟体験を行う深い訳

BBQをしながら、オーナーの石川さんと仲間で大いに話をした。石川さんは元戦場カメラマン。命の危険にさらされる環境にありながらも、何とか無事に生還した。テレビ局のディレクターも務めていたが、現場を命がけで伝える報道カメラマンの想いや現実をしてもらいたいという思いから、日本初となる「報道バー」なるものを友人と開業した。しかし、とあるきっかけで石川さんは報道バーと全ての財産を失い、生きる気力を失ってしまったのだそう。それでも、自死することだけは考えなかった。それは、戦場での経験から、命はそんなに軽いものではないことを知っているから。

そうした人生のどん底にある時、とあるきっけで参加した狩猟体験が石川さんの人生を変えた。それは、罠に掛かったイノシシに止めを刺す瞬間だった。頭の中に誰かの声が聞こえて、生きることに再び目覚め、人生のどん底とも思えたことがちっぽけなことの様に感じたのだそう。この日を境に石川さんは、狩猟体験を通じて人を救いたいという思いから、狩猟の道に進んだのだそうです。

そして、参加者の仲間の中には元、政経部の新聞記者もいたため、石川さんとの話がさらに学び深いものとなった。本当に貴重な時間を過ごすことができた大人のQQBタイムは、日付が変わる直前まで続いた。

宿泊は魅力的なバブルテント

石川さんは狩猟体験以外にもグランピング施設を運営されており、一泊2日の狩猟体験では、バブルテントという魅力的な施設に宿泊する事ができます。テントの内部は広く、6名が寝泊まりできる仕様。調度品もオシャレで工夫されており、前室には天地望遠鏡やバドミントンなどのアメニティも準備されています。テントの外には屋根付きの展望ソファーが置いてあり、家族やカップルに大変お勧めです。グランピングは一日1組限定の貸し切りプランとなっています。

この日は新月でそらが暗かったこともあり、夏にも関わらずスマホで星が撮影できるほどに星空が綺麗に見えました。ちょうど流星群の時期とも重なっていたようで、流れ星もいくつか見ることができました。

狩猟体験2日目の実技は、次の記事でご紹介します。

今日もありがとうございました。

一泊2日狩猟体験シリーズは、全部で4つの記事で構成されています。下記からご覧いただけます。

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エンライトは、似たような価値観を持つ仲間と共に、新しい暮らしの形を作ることを目指しています。それは、日々の暮らしが遊びであり、学びであり、働くことでもある、「遊暮働学」というライフスタイルです。

現代社会はあらゆる分野を細分化し、専門化することで経済的にも技術的にも成長を遂げてきました。しかし、その副作用として人々の分断と孤立を招き、どことなく不安のつきまとう暮らしをしている人が大勢います。

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この記事を書いた人

千葉県我孫子市出身/二児の父/人生の経営者として生きる40代パパ/手作り生活研究家/里山料理研究家/halu農法・創命農法実践家/薪割りマスター/薪ストーブ活用アドバイザー/住宅断熱アドバイザー/自然エネルギー活用コンシェルジュ/ブログ「縄文生活」運営/電気工事士/ワークショップ講師/
20歳の時にペンション・シャロムヒュッテの臼井さんとの出会いに衝撃を受け、何でも作ることのできる人になることを意識するようになる。3回の転職と日常生活での実践を経て、電気・建築・木工・溶接・配管、金属加工・陶芸・農・野草採取・料理・ワークショップ講師など、生活全般を自給自足できる技能を習得。想像し、アイデアを形にすることが得意。
コロナ禍と友人の死をきっかけに、「人生を主体的にデザインする生き方」、「そこそこの人生から最高の人生へ変化する」ことを強く意識するようになる。
現在の目標はセルフビルドで自宅を建築すること。理想は、誰もが自らの能力を活かし、家族や仲間と共に愉しく暮らせるコミュニティーで生活すること。縄文時代の英知に現代のテクノロジーを融合させたライフスタイルを日本の文化にすることを目指す。

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